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2017年6月

2017年6月18日 (日)

日本国憲法、自民党改憲案、中国憲法、北朝鮮憲法等の前文を比べてみた

現行日本国憲法と自民党憲法改正草案を比較する参考として、他国のもいくつか含めて前文を比較してみた。

現行の日本国憲法前文 と自民党憲法改正草案 の前文を比べると、まず、現行の「日本国民は」が「日本国は」に変わっている。

近代の民主主義国の憲法は国民から国家権力への命令書(契約書)であることが本質なので、ここで既に自民党改憲案は憲法ではない、と言える。この本質は立憲主義とも言Photo_2 われるが、これは公権力が暴走しないように縛らなければならないから絶対に必要である。さもなければいつかは独裁になる。自民党改憲案も後半では国民が主語になっているが、前半で国の方が上位という概念が出来ている。

参考にアメリカ合衆国憲法とドイツ基本法(実質的な憲法)の前文を見ると、国民が主語になっている。立憲主義がよく現れている例としてドイツ基本法の第1条を見れば、憲法を守る(憲法に従う)義務は国家の方にあり、憲法は国家権力を拘束するものであることが明記されている。(ドイツ基本法のいわゆる「戦う民主主義」では「ドイツ国民に憲法順守義務を課している」という言い方がされることがあるが、立憲主義を強調しているこの基本法の本質を見逃す危険があるので不適当な言葉だと思う。)

権威には「根拠」「正当性」がないと、暴力組織にしかならない。実際これは長続きしにくい。

自由主義陣営の憲法は個人の尊厳にその根拠を置いているので、「国民」→「国家権力」という形式になる。

一方、中国憲法や北朝鮮の憲法(近代憲法、民主主義憲法とは言えないが)の前文を見てみる。どちらも国が主語であり、歴史に根拠を置いている。中国憲法序文は国の権威の根拠として革命を持ってきている。万世一系の天皇に根拠を置いていた大日本帝国憲法とは対極的である。中国憲法前文の厳密さは特別である。歴史を根拠にするのは権威の根拠としては少々問題があると思うが書いてあるだけ良い。それに比べたら自民党の改憲案は「長い歴史」「天皇を戴く」だけで弱すぎる。つまり自民党改憲案には国家の権威の根拠が書かれていないとしか言えない。
さらに、序文では出てこないが、内容は内閣、特に内閣総理大臣に権力が集中している。何故総理にそのような権力があるのか、その根拠・正当性が書かれていない。これでは論理的に破綻する。

中国憲法、北朝鮮憲法、自民党改憲案は、国→民、の形式なので民主主義国は不可能である(国が暴走したときに止める術がない)。それでも正当性が書いてあれば保つ。書いてないのは危険である。

従って、自民党改憲案は中国憲法や北朝鮮憲法より劣っているということである。

中国憲法前文の最後には人民も含めてこの憲法に従わなければならない旨が書いてあるので立憲主義を明確に否定していると言える。自民党改憲案も前文だけでもその気配があるが草案102条で立憲主義を明白に否定している(自民党憲法改正草案Q&Aでは、立憲主義を否定していないと書かれているが、草案102条があるだけで否定される)

現行日本国憲法 前文

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との 協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに 主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものてあつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の 代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する 一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国 民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努 めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する ことを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

アメリカ合衆国憲法前文

われら合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保障し、共同の防衛に 備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のために自由の恵沢を確保する目的をもって、ここに アメリカ合衆国のためにこの憲法を制定し、確定する。

ドイツ基本法前文

神と人間に対するみずからの弁明責任を自覚し、

統合されたヨーロッパの中で平等の権利を有する一員として、世界平和に貢献しようとする決意に満ちて、

ドイツ国民は、その憲法制定権力により、この基本法を制定した。

バーデン=ヴュルテンベルク、バイエルン、ベルリン、ブランデンブルク、プレーメン、ハンブルク、ヘッセン、メクレンブルク=フォアポンメルン、ニーダー ザクセン、ノルトライン=ヴエストファーレン、ラインラント=プファルツ、ザールラント、ザクセン、ザクセン=アンハルト、シュレスヴィヒ=ホルシュタイ ンおよびテューリンゲンの諸ラントのドイツ人は、自由な自己決定によりドイツの統一と自由を達成した。

これにより、この基本法は全ドイツ国民に適用される。

ドイツ基本法 第1条和訳

第1条 [人間の尊厳、基本権による国家権力の拘束]

(1) 人間の尊厳は不可侵である。これを尊重し、および保護することは、すべての国家権力の義務である。

(2) ドイツ国民は、それゆえに、侵すことのできない、かつ譲り渡すことのできない人権を、世界のあらゆる人間社会、平和および正義の基礎として認める。

(3) 以下の基本権は、直接に妥当する法として、立法、執行権および司法を拘束する。

自民党憲法改正草案 前文

日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

中華人民共和国憲法恋する中国 による和訳)

中国は、世界でも最も古い歴史を持つ国家の一つである。中国の諸民族人民は、輝かしい文化を共同で作り上げており、また、栄えある革命の伝統を持っている。
1840年以降、封建的な中国は、次第に半植民地・半封建的な国家に変化した。中国人民は、国家の独立、民族の解放並びに民主と自由のために、戦友の屍を乗り越えて突き進む勇敢な闘いを続けてきた。
20世紀に入って、中国には天地を覆すような偉大な歴史的変革が起こった。
1911年、孫中山先生の指導する辛亥革命は、封建帝制を廃止し、中華民国を創立した。しかし、帝国主義と封建主義に反対するという中国人民の歴史的任務は、まだ達成されなかった。
1949年、毛澤東主席を領袖とする中国共産党に導かれた中国の諸民族人民は、長期にわたる困難で曲折に富む武装闘争その他の形態の闘争を経て、ついに帝 国主義、封建主義及び官僚資本主義の支配を覆し、新民主主義革命の偉大な勝利を勝ち取り、中華人民共和国を樹立した。この時から、中国人民は、国家の権力 を掌握して、国家の主人公になった。
中華人民共和国の成立後、我が国の社会は新民主主義から社会主義への移行を一歩一歩実現していった。生産手段私有制の社会主義的改造が達成され、人が人を 搾取する制度は消滅して、社会主義制度が確立した。そして、労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義独裁、すなわち、実質上のプロレタリ アート独裁は、強固になり、発展した。中国人民及び中国人民解放軍は、帝国主義と覇権主義の侵略、破壊及び武力挑発に打ち勝ち、国家の独立と安全を守り、 国防を強化した。経済建設では、大きな成果を収め、独立した、比較的整った社会主義の工業体系がほぼ出来上がり、農業生産も著しく高められた。教育、科 学、文化等の事業は、大きな発展を遂げ、社会主義思想の教育で中 国の新民主主義革命の勝利と社会主義事業の成果は、中国共産党が中国の各民族人民を指導し、マルクス・レーニン主義及び毛澤東思想の導きの下に、真理を堅 持し、誤りを是正し、多くの困難と危険に打ち勝って獲得したものである。我が国は、長期にわたり社会主義初級段階にある、国の根本的任務は、中国的特色を 有する社会主義という道に沿って、力を集中して社会主義現代化の建設をする事にある。中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に、マルクス・ レーニン主義、毛澤東思想、鄧小平理論及び"三つの代表"の重要思想に導かれて、人民民主独裁を堅持し、社会主義の道を堅持し、改革開放を堅持し、社会主 義の各種制度を絶えず完備し、社会主義市場経済を発展させ、社会主義的民主主義を発展させ、社会主義的法制度を健全化し、自力更正及び刻苦奮闘につとめ て、着実に工業、農業、国防及び科学技術の現代化を実現し、物質文明、政治文明および精神文明の調和のとれた発展を推進して、我が国を富強、民主的、か つ、文明的な社会主義国家として建設する。
我が国では、搾取階級は、階級としては既に消滅したが、なお一定の範囲で階級闘争が長期にわたり存在する。中国人民は、我が国の社会主義制度を敵視し、破壊する国内外の敵対勢力及び敵対分子と闘争しなければならない。
台湾は、中華人民共和国の神聖な領土の一部である。祖国統一の大業を成し遂げることは、台湾の同胞を含む全中国人民の神聖な責務である。
社会主義の建設という大きな仕事は、労働者、農民及び知識分子に依拠し、団結できるすべての勢力を団結しなければならない。長期の革命と建設の過程におい て、中国共産党の統率的指導のもとで、各民主党派と各人民団体が参加し、社会主義的勤労者、社会主義事業の建設者、社会主義を擁護する愛国者および祖国統 一を擁護する愛国者のすべてを含む、広範な愛国統一戦線が結成されたが、この統一戦線は引き続き強固になり発展して行くであろう。中国人民政治協商会議 は、広範な代表性を持つ統一戦線の組織として、これまで重要な歴史的役割を果たしてきたが、今後、国家の政治生活、社会生活及び対外的な友好活動におい て、また、社会主義的現代化の建設を進め、国家の統一と団結を守る闘いにおいて、更にその重要な作用を発揮するであろう。中国共産党指導の下における多党 協力及び政治協商制度は長期にわたり存在し、発展するであろう。
中華人民共和国は、全国の諸民族人民が共同で作り上げ、統一した多民族国家である。平等、団結及び相互援助の社会主義的民族関係は、すでに確立しており、 引き続き強化されるであろう。民族の団結を守る闘争の中では、大民族主義、主として大漢族主義に反対し、また、地方民族主義にも反対しなければならない。 国家は、全力を尽くして全国諸民族の共同の繁栄を促進させる。
中国の革命と建設の成果は世界人民の支持と切り離すことができない。中国の前途は、世界の前途と緊密につながっている。中国は、独立自主の対外政策を堅持 し、主権と領土保全の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵及び平和共存の5原則を堅持して、諸国家との外交関係及び経済・文化交流を発展させ る。また、帝国主義、覇権主義及び植民地主義に反対することを堅持し、世界諸国人民との団結を強化し、抑圧された民族及び発展途上国が民族の独立を勝ち取 り、守り、民族経済を発展させる正義の闘争を支持して、世界平和を確保し、人類の進歩を促進するために努力する。
この憲法は、中国の諸民族人民の奮闘の成果を法の形式で確認し、国家の基本となる制度及び任務を定めたものであり、最高の法的効力を持つ。全国の諸民族人 民並びにすべての国家機関、武装力、政党、社会団体、企業及び事業組織は、いずれもこの憲法を活動の根本準則とし、かつ、この憲法の尊厳を守り、この憲法 の実施を保障する責務を負わなければならない。

北朝鮮憲法 序文和訳

朝鮮民主主義人民共和国は、偉大な領袖金日成同志の思想と領導を具現したチュチェの社会主義祖国である。

 偉大な領袖金日成同志は、朝鮮民主主義人民共和国の創建者であり、社会主義朝鮮の始祖である。

  金日成同志は、永生不滅のチュチェ思想を創始し、その旗じるしのもとに抗日革命闘争を組織・領導して、栄えある革命伝統を築き、祖国光復の歴史的偉業を成 し遂げ、政治、経済、文化、軍事分野において自主独立国家建設の強固な土台を整えたうえで朝鮮民主主義人民共和国を創建した。

 金日成同志は、主体的な革命路線を示し、各段階の社会革命と建設事業を賢明に領導して、共和国を人民大衆中心の社会主義国家に、自主、自立、自衛の社会主義国家に強化・発展させた。

 金日成同志は、国家建設と国家活動の根本原則を明らかにし、最も優れた国家社会制度と政治方式、社会の管理体系と管理方法を確立し、社会主義祖国の富強・繁栄とチュチェ革命偉業の継承・完成のための確固たる土台を築いた。

 金日成伺志は、「以民為天」を座右の銘とし、常に人民とともにあって、人民のために生涯を捧げ、崇高な仁徳政治で人民を見守り導いて、全社会を1心団結した1つの大家庭に変えた。

  偉大な領袖金日成同志は、民族の太陽であり、祖国統一の救いの星である。金日成同志は、国の統一を民族至上の課題としてかかげ、その実現のためにあらゆる 労苦と心血をすべて捧げた。金日成同志は、共和国を祖国統一の強力な堡塁として固める1方、祖国統一の根本原則と方途を提示し、祖国統一運動を全民族的な 運動に発展させて、全民族の団結した力で祖国統一偉業を成就するための道を開いた。

  偉大な領袖金日成同志は、朝鮮民主主義人民共和国の対外政策の基本理念を明らかにし、それにもとづいて国の対外関係を拡大・発展させ、共和国の国際的権威 を高くとどろかせた。金日成同志は、世界政治の元老として、自主の新時代を開拓し、社会主義運動と非同盟運動の強化・発展のために、世界の平和と人民との 親善のために精力的に活動し、人類の自主偉業に不滅の貢献をした。

 金日成同志は、思想理論と領導芸術の天才であり、百戦百勝の鋼鉄の霊将であり、偉大な革命家、政治家であり、偉大な人間であった。

 金日成同志の偉大な思想と領導業績は、朝鮮革命の万年の財宝であり、朝鮮民主主義人民共和国の隆盛・発展のための基本保証である。

 朝鮮民主主義人民共和国と朝鮮人民は、朝鮮労働党の領導のもと偉大な領袖金日成同志を共和国の永遠の主席として高く戴き、金日成同志の思想と業績を擁護固守し、継承・発展させて、チュチェ革命偉業を最後まで完成していくであろう。

 朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法は、偉大な領袖、金日成同志の主体的な国家建設思想と国家建設業績を法化した金日成憲法である。

以上

 


 

立憲主義という概念の確認

立憲主義という言葉が独り歩きしている気がするので、素人ながらこの言葉の意味を確認したい。これは「憲法は何のためにあるか?」「何故憲法が必要か?」ということに繋がる。

言葉には意味があるが、普通ただひとつの意味とは限らない。「憲法」という言葉にも状況によって違った意味に使われ得る。

  1. 形式的意味: 「憲法」と名付けられた成文の法典(憲法典)。この意味で言う場合は内容は問わない。
  2. 実質的意味: ある特定の内容を持った法典を「憲法」という場合。
    1. 固有の意味: 国家の統治の基本を定めた法のこと。どんな国にもある。
    2. 立憲的な意味: 自由主義に基づいて定められた国家の基礎法。「近代的意味の憲法」とも呼ばれる。1と異なり政治権力の組織化よりも、(専断的な)権力を制限して人権を保障することを目的とする。

「憲法」という言葉でもっともすぐれた特徴は立憲的意味にある。以後は立憲的意味の憲法について確認する。

まず、思想として「すべて個人は互いに平等な存在であり、生まれながらに自然権(人間ならば当然持っている権利、のような意味合いもある)を持つ。その核心は人間の人格不可侵の原則・・・個人の尊厳・・・である。

従って全ての価値、権威の源は個人の尊厳である、ということになる。「憲法の中で最も重要な条文をひとつだけあげよ」との問いには「憲法13条」となるのはここに由来する。

憲法は(様々な目的があるが、最大の目的は)国民の人権を守るため国家権力を制限するものとして存在する。そして憲法を制定する主体は国民ということになる。

法律(法律に準ずるものも含む)が国家(公権力)が国民を制限する(国民に命令する)ものと対比される。

Photo

日本国憲法前文にも

そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、

とある。公権力には正当性がなければならない。上の原理により個人の尊厳がその源であり、国政を行うのは国民から選ばれた代表者であるから、それは国民へ奉仕するための権威でなければならない。それを実定法としたものが憲法である。

また上の原理により国民主権が定まる。

また、憲法はこの理由により最高法規となる。

最高法規としての憲法の本質は、むしろ、憲法が実質的に法律と異るという点に求めなければならない。つまり、憲法が最高法規であるのは、その内容が、人間の権利・自由をあらゆる国家権力から不可侵のものとして保障する規範を中心として構成されているからである。

芦部信喜他「憲法」(第五版)p.12。

憲法が硬性(改正しにくい)であること(96条)は最高法規であること(98条)と相補的な関係にあるからこれらは形式的な最高法規性を宣言している。そして、「最高法規」の部の先頭にある97条は人権を永久に保障するが、それはこの憲法の最高法規性の実質的根拠を示している。
前文の最初が「日本国民は」で始まっており、99条で憲法尊重擁護の義務は公権力である旨書かれているので、憲法の差出人は国民であり、名宛先は公権力である、という「国民→公権力」の形式が明言されている。

形式的ではなく、この実質的根拠を考えるとき、憲法は条文をただ並べたものではなく、条文の重さも同じと考えることは出来ず、全体としてひとつの有機的な価値体系であることになる。

考察

何故、このような立憲的な憲法が必要なのだろうか?

1つは、人間というものは権力を持てば持つほどより権力が欲しくなる生き物であること。例えば「人が酒を飲む」が容易にエスカレートして「酒が人を飲む」よとなるように、人間の欲望にはきりがない。もともと政治家は野心家でなければ務まらないしその中で権力闘争で勝ち抜けばさらに権力を求める傾向は高くなる。従って、本来国民から信託された筈の権威を自分の野心のために使う欲望は非常に強まる。正当性を欠く暴走は容易に起こる。

その歯止めは絶対に必要である。

2つ目は、近代以後の国家権力の強大さがあるだろう。西洋諸国に対抗するため明治維新から日本は中央集権化(廃藩置県など)を進めた。西南戦争は勝負は最初から決まっていた。この強大さは1つ目で述べた為政者の権力への渇望をさらに激しくする。それにもまして、国家は暴力を独占していることになる。

もし、国家権力が暴走して国民に牙を向いた場合、国民はなすすべがない。戦力の桁が違いすぎる。警察が国民に牙を向いただけでもどれほど恐ろしいことになるか。

従って、国民は常に国家権力を監視しなければならない宿命を負う。さもなければ命も危ないからだ。

日本国憲法12条

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

この「不断の努力」は伊達ではない。自由及び権利を国民は油断せず自分たちで守らなければならない。それは国家権力から自分たちを守らなければならないからだ。

以上のことを考えると、立憲主義は国家権力・政権に対して猜疑の心で臨む(性悪説の立場で臨む)必要があるということだろう。民主主義国では、友人、恋人、家族には信頼しても、国家権力を無条件で信頼など決してしてはならない、ということだ。

注意: 権力の分立がしっかりしていなかったり、為政者が法を軽んじている場合は立憲主義も絵に描いた餅でなかなか機能しない。

追記: マッカーサー草案の押し付けについて。1949年2.13.でマッカーサーは「草案の憲法の原理」を変えることを許さず、「政府が何もしなければ直接国民に問う」としたため、日本政府内などで、これは非自主的な「押し付け憲法」であり「全面改定すべき」との意見(押し付け憲法論)が多くなった。確かにこの憲法の原理は政府にとってはこの上もなく屈辱的なものであろう(特に、案を一蹴された松本国務大臣の屈辱は想像を絶するだろう)。学問的には「押し付けの要素があったとしても、それが全面改定する理由になるか?」など評価されていない模様だが、妄執は続いていたと思われる。現行憲法の原理を変え(必然的に憲法の改正限界を越える)、憲法を全面改定する改正案が出たからである。しかし、これは合理的な理由によって出たものとは言いがたいので内容も不合理となりこの改憲は危険である。マッカーサーが政府を見切ってすぐに国民に問うていたらかなり状況は変わっていたと私は考える。(芦部他「憲法」(第五版)p.26.(押し付け憲法論に関する注釈)を参考にした。)

立憲主義については、まだまだ考えなければならないことがあるが、素人の備忘として。情報は主に、芦部他「憲法」第五版から得ている。

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